2004年度・JR城東貨物線,赤川鉄橋における観測演習結果
本研究室の3回生の演習として,今年も大阪市内の河川上における気象観測・熱収支
解析を行いました。
観測日時:2004年7月22日,1332~1441
観測項目(測器):乾球温度・湿球温度(アスマン通風乾湿計:吉野計器製)
:風速(熱線風速計:カノマックス製)
:表面温度(放射温度計:ミノルタ製)
上4要素を東淀川・旭区間を流れる新淀川を渡るJR城東貨物線赤川鉄橋上の橋
脚上の17ポイントで観測してもらいました。これらの観測値を用いてバルク法を
使って顕熱・潜熱フラックスの横断クロスセクションを描くことを最終目的とし
ました。バルク輸送式中のバルク係数としては大気の安定度による補正後の値を
用いました。
以下,学生たち自身の手による結果の取りまとめです。
気温
表面温度の変化は、土地被覆による影響が大きいと考えられる。
まず裸地(地点番号1)の表面温度について考える。
晴れた日の乾いた裸地は、太陽エネルギーをよく吸収する。その熱は土壌の中
深くには伝わらないので、土の中の熱流束は収束し、薄い表層が大変高温に
なる。また、土壌が乾いていると潜熱による放出は省略できる。これらのこと
より、裸地では表面温度が高くなったと考えられる。
水も裸地と同様、太陽エネルギーの吸収率は高い。
しかし、水域(地点番号10-17)では、表面温度と気温の差がほとんどない。
これは、無制限にある水の蒸発により潜熱が消散され、表面温度が高くなら
なかったからだと考えられる。短い植生がある草地(地点番号2-9)では、
裸地ほど表面温度が高くならない。
これは、植生により土壌に直接届く太陽エネルギーが裸地より減少すること、
植物の蒸散により潜熱が消散することが要因として考えられる。
一方、気温は、土地被覆による変化は見られずほぼ一定であった。
これは、顕熱輸送が行われたこと、地点番号1から17のほうに向かって吹いて
いた風がこの顕熱輸送を助けたことにより、周辺の温度が均一化されたからだ
と考えられる。
相対湿度
気温との相関関係は見られなかった。水面と草地では全体的に水面の方が相対
湿度が高い。河川敷の水域に近いところ(観測地点4~9)では、風速が大きいと
きほど相対湿度が高くなっている。これは風が北よりなので水域から水蒸気を
含んだ空気が運ばれてきて、水蒸気圧が上昇したためだと考えられる。水域で
は逆に、風速が大きいほど相対湿度は低くなっている。これは水面で蒸発した
水蒸気が輸送されたためだと考えられる。
比湿
風速との相関関係は、ほとんど見られない。川の水温と陸地の温度差により、
川の中央から端に向かって風が吹く。この風により水蒸気が川の端に運ばれて
きて、観測地点15~17では比湿が高くなっていると考えられる。
一方河川敷では、風が北寄りすなわち観測地点17から1にかけて吹いているが、
地点による比湿の差はほとんど見られない。
風速
風向は、北東から北西の範囲であり、主に北よりであった。つまり風は主に
地点17から地点1に向かって吹いていた。地点17付近では、堤防のために風速は
小さく、堤防から離れるにつれ大きくなり、地点10では値が3倍程になった。地
点9~1の河川敷に入ると、風速は変動した。これは、粗度の違いや、風速の時
間的な変化によると考えられる。 一般的に、水域においての風速は、遮られる
物がないため大きくなる。また粗度の大きい草地などの河川敷では、風速は小さく
なる傾向がある。しかし今回はそのような結果は現れず、全体として風が弱かった
ので、水域と河川敷で風速の大きな変化は見られなかった。
バルクリチャードソン数
バルクリチャードソン数の値は、主に熱、風速の大きさによって左右する。気
温と表面温度の差(Ta–Ts)が正の時、つまり気温より地表面の方が温度が低い
時、バルクリチャードソン数も正の値をとり、大気は安定である。また(Ta–Ts)
が負の時、つまり気温より地表面の方が温度が高い時、バルクリチャードソン数
も負の値をとり、大気は不安定である。またバルクリチャードソン数の値は風速
の値の2乗に反比例するため、風速が大きいほど、絶対値が小さくなる。今回、
水域では気温と表面温度の差が小さいため、その差の大きい河川敷に比べてバル
クリチャードソン数の値は大きかった。それに対して河川敷では全体的にバルク
リチャードソン数の値は小さく、特に風速の小さかった2箇所(地点9と3)では、
小さな値となった。地点1において、地点2に比べ風速が大きくなっているのにか
かわらず図のような結果になったのは、地点1は裸地であり、気温と表面温度の
差が大きく、また地面修正量が小さいからであると考えられる。(地面修正量が
小さいほどバルクリチャードソン数の絶対値が大きくなる。)
熱フラックス
地表面がごく近くの大気を直接暖めることにより出て行く熱エネルギーを顕熱
フラックスとよぶ。また、地面や植物から水蒸気が蒸発するときに、気化熱として
地表面から出て行く熱エネルギーを潜熱フラックスと呼ぶ。
今回の観測においては、裸地である地点1において蒸発散量がほとんどないこともあっ
て表面温度が上昇し、顕熱フラックスの値は大きく、潜熱フラックスは0 W m-2に
近い小さな値をとる。植生が見られた地点2から地点9については、潜熱フラックスは
植物の蒸散量の影響を受けて大きくなっている。顕熱フラックスについては、表面温
度と気温の差が大きかった地点2,3,4,6および9で70 W m-2前後の大きな値になって
いる。
水域であった地点10から17にかけては蒸発散量が常にあるため、潜熱フラック
スは大きな値をとる。顕熱フラックスについては、表面温度と大気中の温度の
差が小さいため、0 W m-2に近い小さな値をとる。
観測者ならびに報告者:数井敬子 宗田智佳 藤本聖子 松本卓也
指導・監督者:青野靖之